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③クローン性造血における遺伝子変異とコピー数異常の統合解析 佐伯龍之介 先生 (京都大学大学院 医学研究科 腫瘍生物学講座)
2022.08.28
学会
佐伯龍之介 先生 (京都大学大学院 医学研究科 腫瘍生物学講座)
クローン性造血(CHP; clonal hematopoiesis)は、血液腫瘍を発症していない人の血液から一定の頻度で遺伝子異常が検出される現象で、近年のゲノム解析技術の進展にともない急速に明らかになってきました。CHPは血液腫瘍の前がん病変と考えられてきましたが、CHP保身者が必ず血液がんを発症するわけではありません。興味深いことに、最近の研究によりCHPは動脈硬化の進展に関わっていることが報告されており、マウスモデルでも確認されたことから、高齢者における主要な予後因子として考えられるようになってきました。
CHPにおいて、遺伝子の変異とコピー数異常(CNV; Copy Number Variation)の解析を同時に行った研究が過去になかったということで、演者らのグループはバイオバンク検体約11万例の大規模解析を行いました。
その結果70歳では40%に変異・CNVいずれかのゲノム異常が検出され、年齢がCHPのリスクファクターでした。その遺伝子異常は、血液腫瘍でも高頻度に生じる異常であり、変異とCNVの一部は同一の遺伝子に生じる共存関係にありました。また、年齢だけでなく、性別、喫煙、飲酒とも相関があり、CHPのリスクとなる可能性がありました。
遺伝子変異数とCNVを両方持っているとより血液腫瘍のリスクが上昇し、両者が同じ遺伝子に共存しているとよりリスクが増すことが分かりました。さらに先行研究と同様に心血管疾患のリスクが上昇し、その影響は高血圧・糖尿病に匹敵するものでした(ハザード比1.3倍)。CNV単独では心血管疾患のリスクとはならず、遺伝子変異にCNVが加わるとリスクが上昇しました。TET2遺伝子の異常はヘモグロビンの低値、血算検査結果と相関していました。
結論として、CHP保因者の中でも特にハイリスク群を絞り込める可能性があり、患者ごとに最適なマネジメントができる可能性を示しました。
個人的な感想としては、動脈硬化・心疾患未病評価の精緻化につながる技術としては興味深いと思いました。高齢者で血算やヘモグロビン低値の方にはCHPを疑ってもよいかもしれませんが、逆にCHP症例にどのような介入が可能なのかが知りたいところです。これらの分析にはかなりの解析コストが発生しますので、指標になるだけでなく積極的に治療を進める意義があるのかを明らかにする必要があると感じました。
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