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⑤老化促進分子を介した加齢同期メカニズムの解明 清水逸平 先生(順天堂大学 医学部内科学教室 循環器内科学講座)

2022年8月28日

清水逸平 先生(順天堂大学 医学部内科学教室 循環器内科学講座)

心不全患者は体温が低いことが言われていましたが、日本人においても同様であることを確認しました。次に、圧負荷心不全マウスを調べたところ褐色脂肪組織の発熱量が低下していることを確認しました。そこで、BAT(褐色脂肪組織)の外科的切除モデル等を作製検証したところ、褐色脂肪組織の除去が圧負荷による心不全の誘導因子であることが分かり、この系を用いて血中を変動する因子を探索したところTMAO(trimethylamine N-oxide)が増加していることが分かりました。

これまでTMAO、食事特に赤身肉等に含まれるコリンやカルニチンが腸内細菌によってTMA(trimethylamine)に変換され、肝臓に含まれる酵素FMO3によって酸化されTMAOとなること、TAMOがアテローム性動脈硬化や促進コレステロールの輸送に関与し、そして脳・心疾患リスクとなること、透析患者の死亡率を高めることなどが示されていました。

演者らの研究により、圧負荷心不全マウスの血中で増加したTAMOは、心筋細胞、骨格筋のミトコンドリアの機能不全を誘導していることを示しました。また、東北メディカルメガバンク機構との共同研究で、ヒトの加齢と血中TMAO量が相関していることを確認しました。

さらに演者らは、老化に伴い増加する代謝産物(セノメタボライト)が加齢同期を誘導し(Seno-metabolite-induced sync-aging)、加齢性疾患の病態を促進すると仮説を立てており、本研究ではTAMOがセノメタボライトの重要な因子のひとつとしてミトコンドリアの数や機能が重要である心臓や骨格筋に障害を誘導したと考えています。

現在、演者らは加齢関連線維性疾患(A-FiD)、老化促進代謝物質関連疾患(SRD)といった新たな疾患の概念を提唱し、心不全やサルコペニア、慢性腎障害、NASHなどが同じ作用機序で生じるシンドロームではないかと考えており、複数の研究グループと共同で検証を開始しています。

※2022.9.1に演者らの論文が発表されていました。

Scientific Reports volume 12, Article number: 14883 (2022)

Brown adipose tissue dysfunction promotes heart failure via a trimethylamine N-oxide-dependent mechanism

https://www.nature.com/articles/s41598-022-19245-x

この論文では、BATの機能不全(外科的切除に加えBAT分化関連遺伝子のノックアウトなど)が異常なコリン代謝(TMAO産生)を介し、心不全を発症させたことを示しています。また、TMAOの産生には上記のFMO3ではなく、発現に性差のないFMO2が代謝している可能性を示しました。また、FMO阻害剤により心機能障害と線維症を改善し血中のTMAOレベルも低下させたことから、新しい心不全の治療法につながる可能性があることを示しました。

個人的感想です。心不全患者では体温が低いというのは知りませんでした。このような関係があるのは大変興味深いです。TMA/TMAO産生を抑制する医薬品開発ではかなり多くのパイプラインあるようです。腸内細菌のTMA産生に関与する酵素を標的とするマイクロバイオーム創薬は新しい治療モダリティです。一方で本研究では、BATの機能障害がTMAO産生を促進するという発見に基づいているため、腸内細菌に依存しない制御方法になる可能性があり興味深いと思いました。ただし、論文にも記載がありましたが、BTA機能障害とTMAOレベルの直接的な関連や、心不全とFMOの活性との関連は明らかになっていません。今後の研究の進展が楽しみです。

TMAOと関係があるかどうか不明ですが、順天堂大学とブルボン社の共同研究によりハーブ由来のセノリティック効果を持つ素材の候補を発見しており、アンチエイジング効果を有する食品機能開発も行っているようで、こちらも大変興味深いお話でした。