老化研究の領域では近年は多くの重要な発見が続いていることから、特に海外で研究開発投資が加速しています。本学会に過去数年間参加していますが、近年劇的に研究が進んであり、エビデンスがしっかりした発表が増えた印象があります。一方で、老化現象は、長年に渡る個人毎の人生で様々な因子に暴露されてきた結果であること、ヒトの遺伝的特性は多様であること、そして加齢に伴い疾患を併存しているケースが多いことからその解明にはまだ時間がかかると思われます。
日本抗加齢医学会における発表は、加齢との関連が強い認知症や眼疾患、そして高齢者における糖尿病、高血圧、がん、心疾患、脳血管疾患などの慢性疾患の病態と治療法などのテーマが中心です。今回参加して感じたのは、本学会は他の臨床系の学会と異なり加齢の視点から幅広く疾患群の病態を評価し、生物学的年齢(⇔暦年齢)をベースにした老化指標項目とレベルを定義することになると予想します。その結果、そう遠くない将来、個人毎の老化タイプとレベルを測定し、疾患の治療とは別に抗老化治療を選択する時代が来る可能性を想像しました。
この新しい考え方を医療者・為政者だけでなく国民全体で社会的なコンセンサスを得るには高いハードルがあると思われますが、案外患者・一般市民のニーズの高まりが原動力となって認知・普及が進む可能性があるかもしれません。当面は2025年に大阪で開催予定の万国博覧会で日本から抗老化ムーブメントを発信することが最重要目標のようです。学会をリードされている方々からは、日本の現状に対しての強い危機感と日本の産業全体を巻き込んでチャレンジしようという強い意思が感じられます。歳をとることは誰も免れることができませんが、老化を制御して多くの方が100歳を超えても健康でいられることは現状のデータからも十分予見可能な未来であり、実現を期待したいです。
老化研究キーワード
・老化は病気か?
・ニコチンアミド モノクレオチド(NMN)の投与とエネルギー産生、抗老化作用の研究
・細胞老化随伴分泌現象(SASP)の物質的同定
・加齢性疾患に影響する腸内細菌叢
・ミトコンドリア機能異常と老化
・オートファジーの活性化
・老化細胞を除去するセノリティクス化合物の探索
・老化指標としての生物学的年齢(Aging clocks)の定義(老化のステージング)
事項からは、TANSAQが独断で選ぶ今年の抗加齢医学会のトピックを簡単にご紹介します。