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事業の方向性

当社の考える社会的課題と事業の方向性について

お時間があればご一読ください

横断歩道

コロナ禍がもたらした社会と医療の変化

皆さんご存知のようにCOVID-19のパンデミックによって近年稀に見る社会の変化が起きました。それまであまり知られていなかった「PCR検査」、「Ct値」、「抗原検査」などの臨床検査の専門用語が一般的な言葉となり、また、ウイルス感染および重症化を抑制する切り札としてのワクチン治療、さらに、病院での感染リスクを下げる遠隔診療の普及なども進み、実際の医療活動においても大きな変化をもたらしました。加えて、糖尿病や慢性疾患(呼吸器疾患、心臓病、高血圧、腎臓病)などを含む「基礎疾患」という言葉の認知度も向上しました。このような状況下で、「自分のウイルス感染リスクがどの程度あるのか?」「感染しないようにするには、重症化しないようにするにはどうすればいいか?」などと人々が意識することとなり、人々の健康意識がこれまでになく高まった機会でもありました。一方で、外出を控えたためにそれまでと比べ、病院での受診や特に健康診断を控える動きもあり、例えばがんの罹患率への影響など、その影響がどうであったかが今後明らかになっていきます。

ウェアラフルをつけた男性

自分の健康状態を把握するニーズが増加

これまでは健康診断の結果を受けて基準値を外れてから個別の病院を受診する流れとなっており、どうしても仕事や家庭の都合を優先することが多かったのではないでしょうか。本人が生活習慣を改善しないことの危険性を自覚しようにも、ある程度悪化した状況に進まない限り、個人レベルでリスクを管理することは難しい状況と考えます。しかし前述の様にコロナ禍によって人々の認識や行動が変わったこともあり、これからは病気になる前の未病の状態から積極的に健康な状態を維持したい、リセットしたいと考えることが当たり前になると予想します。これはすでにウェアラブルセンサーやスマートフォンアプリで各自の運動などの活動、睡眠や食事、健診、病院の受診・処方などの多くのデータを持ち歩く、連携・共有することのハードルが格段に下がってきたことからも加速すると考えられます。

川辺を歩く老夫婦

未病の把握から個別化予防、健康寿命の
延伸へ

我が国において人口分布の高齢化に伴い医療費が増加し続けており、2022年には「団塊の世代」が後期高齢者である75歳以上となり始めます。75歳以上になると、1人当たりの医療・介護費用が急増することは確実であること、それに加え現役世代の減少に伴う税収の低下、そして世界情勢の変動も加わり医療財政のひっ迫度は極めて高く、将来経済が良い方向にぶれる可能性を想定することが限りなく難しい状況です。
「病気になってから治す」のが現在の医療であると言えます。しかし、国や自治体では、今後の医療の方向性として健常な状態と疾患の状態の境界領域である「未病」の状態を個人ごとにモニタリングし、疾患発症リスクの高い方を早期に発見し食事や運動などの行動変容を誘導することで、最終的に健康寿命延伸と医療費の削減を目指しています。この未病の状態において個人ごとにリスクを評価し最適な対策をする「個別化予防介入(医療)」の社会実装が最も重要であると私たちも考えています。そのために、まず基本的に生涯不変であるゲノム情報を個人で保有し、必要に応じて最小限の遺伝子多型情報を適切な相手に適切な手段で提供し、優良なサービスを享受する時代は近いと予想しています。

顕微鏡_QBL6Eop

我が国における研究開発の課題

これだけ臨床検査、診断、治療、分析技術が発達し、多くの疾患を治療することができる現代においても、境界領域から疾患発症へ至る確率と、積極的な介入の効果について十分研究がなされているとは言えずエビデンスは不十分です。過去20年以上、世界中でゲノム解析と疾患群で保有率の高いゲノムの多型を探索する研究が続けられています。その結果、遺伝病や家族性腫瘍などの疾患発症に遺伝子の変異が関与しているケースが多く同定され、その結果遺伝性疾患の主要な遺伝子リストを人類は手にすることができました。それを元に高度な解析技術により遺伝性疾患の可能性のある方のゲノムDNAを調べ、遺伝子変異情報を元に診断を行い適切な治療が可能になりつつあります。一方で、慢性疾患発症リスクを発症前に正確に予測する検査はまだありません。ゲノム情報だけでなく、血液や尿などに含まれるタンパク質や核酸または腸内細菌叢など、様々な因子が関連していると考えられ、論文やデータベースの情報から統計的に疾患発症の危険率を示す商業サービスは多数ありますが、前向きに検査性能を評価したデータは極めて乏しいのが実情です。
慢性疾患発症を予測することが難しい理由として、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの慢性疾患に関与する遺伝子群が非常に多く、ひとつの遺伝子の変異(多型)が発症に寄与する割合が小さいということが指摘されています。また、臨床研究を進めるうえでの指針や倫理規制、公的研究費の分配、研究期間、症例数、など多くの課題があり大規模な研究を進める上での高いハードルがあります。今後、多くの医療研究機関の連携による症例の蓄積や、破壊的技術を開発するテクノロジー企業による解析技術のアップデートによって徐々に有用な成果が出てくると予想されますが、我が国でこの領域が大きく変革するにはコロナ級の社会的な変化が生じないとなかなか難しいのかもしれません。

PCを見ている女性

氾濫する健康情報をまず疑う、正しく
理解する

これまで述べてきたように、社会保障制度が持続できない可能性が高い以上、誰もが「自分の健康は自分で守る」ために何をすればいいのかを真剣に考える必要があります。しかしながら、インターネットにはフェイク情報、根拠のない情報が非常に多く存在しているため、対象領域によっては予備知識のない方が正しい健康情報にたどり着くことは難しくなってきています。最近では、ゲノム情報の活用や全く新しい作用機序を持つ医薬品の登場など専門性が非常に高まっており、医師であっても他の分野の情報を正しく理解しすることが難しくなっています。適切な情報ソースにアクセスすること、不適切な情報に惑わされ必要な治療を受ける機会を逃すことがないようにすることが重要です。

女性の顔

TANSAQの考える「未病」の状態とは

これまでの過去の多くの研究から、過食や運動不足による肥満、飲酒・喫煙、不規則な睡眠など生活習慣の乱れ、そしてストレスレベルの状態が持続することで、慢性炎症やインスリン抵抗性、エネルギー代謝異常、腸内細菌叢のかく乱(dysbiosis)、最終糖化産物(AGEs)や老化細胞、異常な腸内細菌由来のメタボライトの蓄積など、様々な変化が生じ「未病の場」を体内各所に形成していると考えられます。若い時には多少の無理は気にならないのですが、歳を重ねて来ると身体に変化を来す方が多いのではないでしょうか。実年齢(chronological age)に対し、身体の状態を示す生物学的年齢(biological age)を調べる手法が近年数多く報告されています。いずれの手法も、ゲノムDNAのメチル化や変異の蓄積、腸内細菌叢のパターン、そして血液中の炎症マーカーなど様々なマーカーを用いて算出を行っています。これらの研究は大変興味深いのですが、まだすべて基礎的な研究段階であるため、皆さんが利用するにはそれらが何らかの介入によって変化することが日本人の研究で示されてからでもよいかもしれません。ただし、興味がある方が積極的に研究に参加して自分の状態を分析することは悪いことではなく、研究内容を理解しご自身の情報を提供する機会を増やすことになり研究環境としてはむしろ良いことであると考えています。もちろん健康(老化)状態を把握する目的に限定され、病気の診断に用いることはできませんのでご注意ください。