山田 秀和 先生 (近畿大学アンチエジングセンター )
仲木 竜 先生 (株式会社 Rhelixa )
暦年齢は、生まれてからこれまでの時間の長さを表していますが、暦年齢は必ずしも体の老化度(生物学的年齢)を表しているわけではありません。老化治療のためには老化の客観的な評価が必要で、生物学的年齢を考慮する必要があり、生理学的な指標や血液検査などから多くの老化の指標が提案されています。特にDNAのメチル化を用いたエピジェネティック・クロック(EC)が近年重要視されています。既報の生物学的年齢の算出は西洋人のデータベースを使用しており、そのまま日本人に適用することは困難でしたが、東北メディカルメガバンクのデータを用いて日本人の標準アルゴリズムが開発され、日本人の生物学的年齢を算出することが可能になりつつあります。
ECは2013年にSteve Horvath博士によりHorvath clockが発表されて以降、第二世代としてPhenoAge(2018)、GrimAge(2019)が、第三世代として、老化の速度を評価するDunedin PACEが老化の速度評価に使用されています。また、老化に関連する炎症を評価するDNAmCRPや運動介入を測定するDNAmFitAgeなども報告されており、歩行速度や握力などが老化と関連することが示唆されています。
山田先生はご自身のEC測定も行われており、使用する検体や計測方法などによっても異なる結果が得られる可能性がありますが、ECは3ヶ月程度で変動する可能性があると言われていました。ECの精度も向上し、心理的要因や環境要因の重要性も明らかになってきていますが、まだ制限がいくつかあるとのことです。一つ目はエラーの可能性で、ECは技術的エラーと生物学的変動の影響を受ける可能性があります。二つ目は、ECは多様な集団、様々な組織にあり、使用するクロックによっても予測対象が異なります。三つ目はECの根底にある生物学的メカニズムは完全には理解されていないことです。老化に影響する因子がますます複雑となってきており、横断研究より縦列研究の重要さがますます指摘されています。
仲木先生は現在提案されている複数のECについてそれぞれの特色と限界を解説されていました。第一世代のHorvath’clockは、体全体の老化が予測され、Hannum’sclockは血液の老化が予測され、Levines’ clockはその中間に当たり、これは構築アルゴリズムの違いではなく、使用するデータセットの違いによるものとのことでした。第一世代のECを使用する際には人種、細胞腫、年齢層、病状、投薬介入などに注意する必要があるようです。第二世代のECは、より特定のフェノタイプに即したものを構築しているようで、年齢を出すのではなく、特定の臓器、細胞がどのような老化をたどっているのかを予測するもの、との事でした。第三世代は老化指標の変化を反映して構築されており、老化の程度と進行ペースの両方が反映されているもの、との事でした。
海外ではEC検査が先行しており、様々なサービスが提供されています。今後、さらにECへの知見が深まることで、老化対策や疾患予防など、健康寿命にイノベーションがもたらされることを期待します。