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ケトン体とCKD治療 富田 一聖 先生1, 久米 真司 先生2 (1.富田クリニック, 2.滋賀医科大学糖尿病内分泌・腎臓内科)

2023年7月18日

近年、糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬が慢性腎疾患CKDの腎機能低下抑制効果があることが示されました。これは、タンパク尿の程度に依存しない、糖尿病ではない患者に対しても有効であることから、演者らはこの分子機序の解明こそが新たなCKD治療標的の発見につながるのではないかと考えました。SGLT2阻害剤の臓器への影響として、糸球体過剰濾過の改善、心機能への影響(心腎連関)、低酸素の改善、そしてエネルギー代謝の改善が考えられています。演者らはケトン体のエネルギー代謝の改善作用について注目して研究を行ってきました。

絶食等でブドウ糖の利用が制限されると、ケトーシスと呼ばれる肝臓の作用でケトン体が産生されます。これまでの糖尿病治療がインスリンの作用を強化することによって、肝臓におけるケトン体産生を抑制するのに対し、SGLT2阻害剤ではインスリン作用を減弱することでケトン体を上昇させた結果、腎臓への効果が表れたのではないかと考えました。細胞内におけるエネルギー産生はブドウ糖を用いる解糖系と脂肪酸酸化のATP産生を行っていますが、尿細管においては、解糖系酵素を発現しておらず、脂肪酸酸化によってエネルギーを産生していること、糖尿病や動脈硬化によって脂肪酸酸化が低下することによってATP産生が低下し、腎障害が誘導されることが示されていました。それに対し、ATP産生が、脂肪酸からケトン体にシフトすることによって生み出されていること、SGLT2阻害剤によってケトン体が生じていると仮説を設定しました。演者らのin vitro、in vivo実験により、障害を受けた腎臓ではケトン体利用の亢進が進んでいること、SGLT2阻害薬を介したケトン体供給が腎保護効果をもたらしていること、また、ケトン体はシグナル因子として、細胞機能障害や細胞死を誘導するmTORC1を抑制すること、その結果、mTORC1が抑制していた脂肪酸酸化を改善することが示されました。

さらに近年、酵母、線虫、ショウジョウバエ、サルまでカロリー制限で寿命が延長したことが示されています。演者らはカロリー制限によってケトン体産生が亢進することによりmTORC1を抑制することによってこの効果が得られたのではないかと考え新たな研究を進行中です。臓器特異的にmTORC1を抑制したマウスの解析結果から、近位尿細管と肝臓の2臓器においてはケトン体投与によってmTORC1の抑制が確認されています。さらにマウスへのケトン体投与によって寿命が延長する可能性があったものの、投与のタイミングについては逆効果であったりしたことからまだ検討の余地がありそうです。

個人的なコメントですが、これらの仮説がヒトでも有効である場合、どのタイミングでケトン体を摂取するかが重要です。一方で、すでにケトン体産生を誘導するMCTオイルやケトン体素材が販売されており、安全性と機能性の評価が進められています。食品やサプリメントとしての摂取でも有効なのか?医薬品として開発できるのか?摂取量や血中濃度の管理まで厳密に行うべきなのか?などの疑問が湧きますし、臨床におけるSGLT2阻害剤の作用機序の解明も含め研究としてもビジネスとしても興味が尽きない領域です。