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③エネルギー代謝とDNA損傷応答機構をターゲットとした心不全治療法の開発 佐藤 迪夫 先生( 熊本大学大学院生命科学研究部代謝・循環医学分野分子遺伝学講座)

2022年8月2日

佐藤 迪夫 先生( 熊本大学大学院生命科学研究部代謝・循環医学分野分子遺伝学講座/熊本大学生命資源研究・支援センター/佐賀大学医学部循環器内科)

本研究グループは、マウスから心筋細胞の細胞質に発現する新規lncRNA Caren:Cardiomyocyte enriched non-coding transcripts を同定し、心臓におけるCaren の発現が加齢や心不全病態において減少していること、減少したCaren の発現を外部から(マウス心不全モデルに)補完することで、心機能が改善することを示しました。

高齢マウスでは、心臓に活性酸素種(ROS)が集積し、DNA損傷や炎症が生じていること、ミトコンドリアの数や構造が異常になっており、機能が低下しています。高齢マウスにCarenを導入することにより、ミトコンドリア生合成と機能回復、そしてDNA損傷応答の軽減が誘導され、結果として心臓肥大および心臓収縮・拡張能低下抑制、運動耐用能改善、限界運動後の死亡抑制など加齢性の変化を改善しました。さらにヒトからCARENのオーソログ遺伝子を単離し、同様の機能があることを確認しました。

【所感】

百寿者の主要な死因は心不全(心臓のポンプ機能不全)であり、がんや心血管疾患を免れた高齢者が最後に挑む?百寿者になるための壁が心不全の克服であるとのことです。

本研究が興味深いのは、内因性のlncRNAを補充することにより、表現型を正常に回復できること、そして動物種を超えて機能が保存されていたということです。少なくとも哺乳類以降の生物種において重要な機能を持っていると考えられます。そのターゲット群と作用機序の詳細は今後明らかになるでしょう。

現在までに承認された遺伝子発現をターゲットとしたRNA創薬で用いられたのはアンチセンスオリゴ核酸やsiRNAでしたが、最近になりヒトが発現している天然型のmicroRNAの補充療法の開発も行われるようになってきました。本研究のように有望な機能性lnc-RNAの報告が出ることにより、新しいモダリティによる医薬品開発が進むと期待されます。