寳澤篤 先生 (東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
東北メディカルメガバンク(ToMMo)では、令和2年度に15万人全症例についてアレイ解析を完了しており、2020年には8,300人分の全ゲノム解析を実施しリファレンスパネルを構築しました。それ以外にもメタボロミクスやDNAメチル化解析データも徐々に蓄積を進めています。
高血圧と関連のある43のSNPを用いて1万人のデータを解析しリスクスコアを計算したところ、血圧値との相関が確認できた一方でGRS四分位の群間で年齢・性別・飲酒・BMI・Na/K比のリスク因子では差がありませんでした。しかし、これに、BMI・飲酒・Na/K比のいずれかを有数個数で層別化すると、UKBiobankの既報結果と同様に、GRSが低いつまり「遺伝的に恵まれていても生活習慣によっては高血圧になる群」と、逆にGRSが高いつまり「遺伝的にリスクが高いと生活習慣が品行方正でも高血圧になる群」があることが示されました。これらに対する介入方法は異なるだろうという見解でした。
質疑応答では、「循環器領域においては、がん領域に比べてゲノム医療が15年遅れている」と指摘されたことがあり、臨床との温度差があるとコメントがあった一方で、CHPなどのようにがんと同様の治療につながる標的が出てくることを期待するのと、臨床実装のためにはハイリスク群への指導方法を確立するにすることが重要で、そのためには疫学研究が重要であると発言がありました。
個人的感想です。今後、健診等でゲノム測定をやって、低リスク群には生活習慣指導を行い、高リスク群には積極的治療を行う可能性を感じました。その一方で、データベースだけでは臨床検査として活用できる感度・特異度などの性能を持った検査サービスを開発することはできず、別の検査系開発の工程が必ず必要になります。国家プロジェクトで基盤となるデータベースを構築する一方で、公的な研究費に依存しない継続的な開発とサービス提供体制が必要であろうと感じました。