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健診情報とゲノム情報の統合による疾患予防システムの構築 村上義則 先生(東京大学医科学研究所)

2023年11月6日

日本の国民皆保険制度では、病気になってから治療するという考えが強くありましたが、現在日本の医療費は毎年増加を続けており、問題となっています。そこで注目されるのが"予防"です。予防は最大の治療とされ、様々な研究が進められています。

本演題は、ゲノム情報+多層的生態情報の統合による新しい疾患予防システムの開発に関する内容でした。現行の健診では、全員が同じ検査を受け、結果が返されます。しかし、この新しいシステムではゲノム情報、日常の生活ログ、臨床情報などの多層的データを取り入れ、個々の疾患リスクを予測するシステムを構築し、疾患予防や治療薬の開発を目指しています。

この解析では、企業コホートが使用されており、双方向の情報交換ができる次世代型の健常人コホートを採用しています。ゲノム解析では、PRS(ポリジェニックリスクスコア)解析を実施し、バイオバンクジャパンのデータをもとに肥満、脂質異常症、2型糖尿病などのPRSを構築しました。このPRSをコホートで検証した結果、PRSが疾患の高リスク群の識別に有用であることが確認されました。

現在の機械学習を用いた疾患リスク予測手法は、個人の健診結果をもとに疾患の発症リスクや将来の発症確率を予測するものです。これにPRSや新たな指標を追加することで、予測の精度を向上させ、行動の変化を促す、新しい健診の方法を提案しています。

個別化された予防の取り組みが増えてきており、急速な進化が期待される一方、十分に検証されていない段階での情報提供には問題があるかもしれません。特定の疾患での影響が大きいレアバリアンの存在や、現在治療法がない疾患に関する情報の提供には慎重さが必要です。リスクを理解し、行動を変え、現状を改善することができる疾患から取り組むことで、予防医療に貢献することがまずは重要ではないかと思いました。

この発表以外にも、ゲノム情報と健康診断の組み合わせ、または250項目のバイオマーカーを測定するといった手法で、個別化予防に関するいくつかの報告がありました。これらの報告は、結果に基づいて個々に行動変容のアドバイスも提供しています。自分自身の健康リスクを理解し、行動を変えることは確かに重要です。しかし、その変化を継続する方法がさらに重要な要素ではないかと思っています。