沖縄の本土復帰50周年での開催ということもあり、1972年の沖縄県の本土復帰後の急激な健康状態の低下、死亡率の上昇について、本学会会長 益崎 裕章先生(琉球大学・医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病 内科学講座 (第二内科) 教授)の講演と、琉球大学病院栄養管理部の大城ちか子氏の演題でお話を聞くことができて、大変衝撃を受けましたのでご報告します。それは「沖縄クライシス」と呼ばれているのですが、その呼称が相応しいと感じるほどに危機的な状況にあります。
沖縄クライシス
平均寿命は以下のように急激に低下しました。
男性 1980年代1位→2002年26位→2015年36位
女性 1980年代1位→2002年3位→2015年7位
この急激な凋落には理由があります。ファーストフードが上陸したのが沖縄県の場合、1950年代(本州は1970年代)で、早期に脂肪比率が高いファーストフード文化の普及が進んだことがあります。その結果、肥満者の割合、BMI平均が男女ともに全国平均を上回っています。男性を見ると、20代は全国平均よりも低いのですが(23.7% vs 26.6%)、30代以上で急激に増加し全国平均を10%程度高く、50代になるとなんと50%の方が肥満(BMI25以上)となります。女性も比率は男性ほどではありませんが、30歳以上ですでに全国平均との差が著しい結果となっています。他に影響する要因としては飲酒があり、沖縄県の飲酒量は20代から全国平均より高く、アルコール性肝疾患による男性の死亡率は全国平均の2倍です。これらの要因により生活習慣病リスクを高めていると考えられています。そして真の沖縄クライシスと言われていたのが、20~64歳の働き盛り世代における死亡率が、男性が全国1位、女性が全国2位となっており、80歳以上が最下位であるのと対極であることが印象的です。沖縄県民の疾病構造の変化は30年間で急激に変化しており、2型糖尿病・肥満症・慢性腎臓病・心血管病が急増し、これらが直接的・間接的な脂肪の原因になっています。
琉球大学・大学病院の取組み
次に、琉球大学や大学病院の取組みの紹介がありました。琉球大学病院では、病院食の「糖尿病食」・「脂質異常症食」・「低エネルギー食」に玄米ご飯を導入しています。玄米食は①脳に作用して脂肪食依存を改善、②消化管からの脂質吸収阻害、③血糖コントロール・糖尿病予防、④腸内フローラのバランス改善による便秘改善や免疫機能強化があること、その機能成分としてγ-オリザノールを同定し、健康食品・サプリメントとしての事業化も関与しています。また、重度の肥満に起因して重篤な症状を発症した患者の治療を、管理栄養士を含む心不全緩和ケアチームによる多職種介入・地域連携により個別化ケアを行っています。患者の家庭環境や生活様式などの背景を考慮するなど患者の多様性に対応した特に栄養教育、継続的な栄養コンサルテーション、退院後の地域連携が奏功しているとの報告がありました。
久米島デジタルヘルスプロジェクト
さらに沖縄の離島の久米島をフィールドワークとして、デジタルヘルス介入の実証実験を行っています。久米島は日本の20年後の人口比率を反映しているとされ、沖縄本島よりも生活習慣病の発症状況が深刻な状況です。離島ということで転入転出の頻度が低く、生活習慣が類似しており比較的均質な集団に対する疫学調査とデジタルヘルスデバイスによる情報収集、AIによる介入が容易であるという優位性があります。実際にAIによる行動変容の誘導により65歳未満の男性において半年で3%の減量を達成度が高いことが示されるなど、今後の日本全体が直面する健康・医療問題の解決のヒントが得られているとのことでした。
【所感】
琉球大学のこれらの取組はいずれも素晴らしく、他の地域への横展開が可能と思いました。今回の沖縄では美味しい沖縄料理と泡盛古酒が大変危険な組合せであると再認識しました(笑)。自分のBMIや血糖値が気になることもあり、演題の多くが他人事ではなく、慢性疾患の予防のために肥満対策とその行動変容をどのように誘導するかを当社の事業として本気で検討していきたいと思いました。