いま結晶工学の観点から結石生成機序および結石の熱い議論がなされています。大阪大学工学研究科の丸山美帆子氏らのグループが結晶を合成・観察する基礎検討から、臨床の結石検体の高次分析まで行い大変興味深い研究成果を発表しました。尿路結石で最も多く検出されるシュウ酸カルシウムCaOxは、無水、1水和物(COM)、2水和物(COD)、3水和物(COT)の4種類が存在します。層状構造で緻密な構造を持つCOMは溶解度が低い安定相、ランダムで粗い構造を有するCODは溶解度が低く準安定相です。痛風結石患者毎に異なる複数の結晶相から構成されると同時に100種類ものタンパク質と複合体を形成するなど、極めて複雑な様相を呈しています。研究グループは多くの結石分析手法を開発しているのですが、そのひとつとして溶液中で結晶の相転移を誘導し、生成物をマイクロX線CTにより観察する実験系を開発しました。その分析の結果、COD結晶内部で相転移が開始し、初発生成している層状のCOMとは異なるモザイク状のCOMへと徐々に相転移する過程が示されました。モザイク状COMは単結晶内の半閉鎖系で相転移形成される比較的固い結晶であり、結晶内部でのCOM相転移の進行により結石を硬化することが示されました。このことは、外科手術治療によって結石を破砕しにくくなるなど治療の成功率に影響している可能性があります。
丸山氏らの研究グループは基礎的な観察実験と臨床症例の結石の分析結果の統合を進める新しい研究手法を進めており、結石の破砕・回収を日常的に行っている臨床医にとっても大変関心の高い演題のようでした。