〇阪元 駿平1 、北村 裕介1 、荒谷 知弥1 、安田 敬一郎2 、熊本 清太郎2、 中島 雄太1 、岩槻 政晃3 、馬場 秀夫3 、勝田 陽介1、中西 義孝1 、井原 敏博1
(1 熊本大院先端、2(株)オジックテクノロジーズ、3 熊本大院生命)
血中腫瘍循環細胞(CTCs)を検出、測定する新しい原理・技術開発についての発表でした。
演者らは上皮がんのマーカーであるEpCAMを発現するCTCを検出するために、EpCAMを特異的に認識する抗EpCAMアプタマーと複数のオリゴDNAを用いた発光シグナル増幅の仕組みであるDNAサーキット法を開発しました。この手法は自発的発光増幅技術(エントロピー駆動型DNAサーキット、EDC)とされ、簡便で低コストの方法として期待できそうです。もともと本研究以前に、研究グループはCTC補足用フィルターを開発していました。これまで多くのCTCを濃縮する手法が開発されてきましたが、コストや効率、性能に課題がありました。このフィルターは、フィルターの三次元構造に基づくサイズ選択と、アプタマーを用いたアフィニティ選択により、血液1mL中に5個のがん細胞をスパイクしても検出できることを確認できました※。
今回の発表された手法は、CTC捕集に用いたアプタマーを活用したシグナル増幅系であり、ゴールデンスタンダードとして米国FDAで承認されたCTC測定機器であるCellSearch Systemのように血液容量当たりの細胞数で評価するのではなく、溶液中の反応産物をUVで励起した蛍光(FAM)として定量評価します。セルを用いた反応系では目視でも30分程度判別できることからPOCTとしての使用できる可能性もあります。
※論文参照:https://doi.org/10.1016/j.talanta.2021.122239
総合的な所感です。これまでマイクロ流路等を用いてCTCを検出する技術の研究開発が数多くなされており、我が国においても相当の研究資金が投入されていますが、なかなか実臨床で活用できるものはまだ少ないと言えます。今回、これまでにないCTCの濃縮系とシグナル増幅系の技術をそれぞれ確立し融合させたのは素晴らしいと思いました。今後は、再現性検証と精度管理手法の確立と、各がん種とステージによってCTCの検出頻度が異なりますので、臨床的な有用性の評価結果に期待したいと思います。また、次世代シーケンサーによるCTCよりも血中循環腫瘍DNA(ctDNA)の臨床応用が格段に進んでいますので、それらの可能な領域とどのように使い分けるのかが重要なポイントではないかと考えます。